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2019.10.30 読売新聞夕刊に掲載された劇評をご紹介します!

 
仮想空間で人間問う

 インターネット上の仮想世界が肥大化した近未来を描く衝撃作だ。米国の劇作家ジェニファー・ヘイリーが2013年に発表した戯曲を、瀬戸山美咲の上演台本・演出で日本初演した。

 仮想空間ネザーには、学校や会社を始め、現実世界に対応したエリアがある。捜査官のモリスはハイダウェイというエリアでの子供との性行為提供疑惑を追っている。管理するシムズと顧客のドイルを取り調べ、潜入捜査官を送り込んだ。

 ハイダウェイとは英ビクトリア朝風の邸宅がある心地よい空間だ。利用者は好みの容姿になって少女と戯れる。取調室での応酬と、仮想空間の住人と潜入捜査官との触れ合いを交互に見せながら、ネザーに固執する3人の男の心象をつづる。

 当初は強気なモリスも、仮想世界の意義を説くシムズや、現実を捨てる決意をするドイルの思いに触れるうちに心が揺れる。やがて3人の執着の正体も分かる。それは他人を求める衝動。すなわち愛することだ。肉体も性別も超えた愛の交感は可能か。本作はネット上の欲望の暴走や倫理の揺らぎについて考えさせるのみならず、人間の根本についても問いかける。

 取調室のモリス役・北山宏光は多くの時間、横顔ばかり見せる。シムズ役・平田満、ドイル役・中村梅雀とひたすら向き合うからだ。そのシャープさを奥深い演技で翻弄するベテラン2人との攻防は見応えがある。ネザーへの転換は神秘的な映像が見事で、その後現れるハイダウェイの豪華な装置も鮮烈だ。様々な衝撃で深い思考を促す。上質のSFサスペンスだ。

(祐成秀樹)
読売新聞夕刊2019年10月29日付より作成

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